※研究会メーリングリスト配信版と比べ,画像を一部割愛しております
対人関係療法研究会の皆様へ
臨床現場でご尽力されている皆様に少しでもお役に立つ情報をお伝えできればという思いで、定期的にIPT-JAPAN通信を発行しております。IPT-JAPAN通信Vol.11では、認知行動療法と対人関係療法それぞれにおける対面とオンラインでの提供を比較した文献紹介、Markowitz先生にご指導いただいた論文を含む皆様にご紹介させていただきたい論文紹介、ならびに8月に開催された実践応用編の開催報告についてお伝えいたします。
IPT-JAPAN通信編集委員会
○●文献紹介●○ 世話人 大石 康則
IPT通信では、毎号、IPTに関する様々なトピックや重要な文献などを紹介しています。
今回ご紹介するのは……
うつ病に対する短期対人関係療法と認知行動療法、その対面診療および遠隔診療のランダム化比較試験
Randomized trial of brief interpersonal psychotherapy and cognitive behavioral therapy for depression delivered both in-person and by telehealth.
Holly A Swartz, Lauren M Bylsma, Jay C Fournier, Jeffrey M Girard, Crystal Spotts, Jeffrey F Cohn, Louis-Phillippe Morency.
J Affect disord. 2023; Jul 15;333:543-552. PMID: 37121279
2023年に発表された最新の論文です。うつ病に対する対人関係療法(IPT)と認知行動療法(CBT)の効果を比較した研究で、それぞれ対面診療と遠隔診療が実施されています(つまり計4群間での比較)。これは元々予定されていた形ではなく、COVID-19流行のため、やむなく対面診療から遠隔診療に切り替えたことで計画が変更されたものです。
試験の概要は以下の通り。
- Dyadic Behavior Informatics for Psychotherapy Process and Outcome(DAPPeR)という大規模プロジェクトの一部
- 2018年7月開始。対面診療で行われていたが、COVID-19パンデミックのため2020年3月に中止となった(フェーズ1)。
- 2020年7月再開。診療は安全なビデオプラットフォーム(Zoom)で行われた(フェーズ2:2021年3月まで)。
- 参加基準は18-65歳、DSM5で大うつ病性障害と診断、17項目のハミルトンうつ病評価尺度(HRSD-17)で14点以上。過去1か月以内に抗うつ薬の用量変更なし。
- 治療期間は10週間。
- 評価は治療開始前、5週後、10週後に行われた。使用されたのは17項目ハミルトンうつ病評価尺度(HRSD-17)、Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)、自己記入式簡易抑うつ症状尺度(QIDS-SR)、全般性不安障害評価(GAD-7)、Working Alliance Inventory(WAI)、WHO Disability Assessment Schedule 2.0(WHODAS)など。
- 介入はCBT、IPTともに8セッション/10週間、1セッションは50分。
結果は……
◆ フェーズ1(対面診療)
- 49名が無作為化割り当て。CBT治療群24名、IPT治療群25名。
- CBT治療群は19人、IPT治療群は14人が完遂。
◆ フェーズ2(遠隔診療)
- 28人が無作為化割り当て。CBT治療群11名、IPT治療群17名。
- CBT治療群は8名、IPT治療群は16人が完遂。
■ HRDS-17の変化
(画像ファイルは割愛)
- CBTとIPTの治療効果に有意差なし。
- 対面診療と遠隔診療の治療効果に有意差なし。
■ MADRSの変化
(画像ファイルは割愛)
- CBTとIPTの治療効果に有意差なし。
- 対面診療と遠隔診療の治療効果に有意差なし。
■ QIDSの変化
(画像ファイルは割愛)
- CBTとIPTの治療効果に有意差なし。
- 対面診療と遠隔診療の治療効果に有意差なし。
■ WAI-SRの変化(得点が高いほど、Working Alliance(作業同盟)が肯定的に評価されていることを示す)
(画像ファイルは割愛)
- Patient、Therapistによる週ごとのWAIスコアは、両方とも経時的かつ直線的な増加を示した。
- TherapistのWAIスコアでは、遠隔IPT治療群が遠隔CBT治療群に比し経時的増加が有意に大きかった(ただしこれは初回セッションにおける遠隔IPT治療群のスコアが他と比べて有意に低かったためである)。
Discussionに記載されていますが、元々この研究の著者たちは遠隔診療よりも対面診療のほうが良い効果をもたらすと考えていたようです。しかし、予想に反し、対面診療と遠隔診療の治療効果に差は認められませんでした(ただし前述の通り、対面診療を行った群と遠隔診療を行った群は治療期間が異なるため、二群を全く同じ条件下で比較したわけではない点に留意する必要があります)。
遠隔診療については「クライエントの生命リスクが高い(希死念慮の増悪、摂食障害による極端な体重減少など)場合にどのように対応するか?」など検討しなければならない問題はありますが、その一方「通院の負担がないため続けやすい」「IPT治療者のいない地方でも実施可能」といったメリットもあります。本研究で示唆されたように対面診療と比べて治療効果に差がないとなると、従来考えられていた以上に遠隔診療によるメリットは大きいのかもしれません。
今回の文献紹介は以上です。
次号以降もどうぞよろしくお願いいたします。
○●皆様にご紹介させていただきたい論文紹介●○ 世話人 利重 裕子
私は現在、遺族のうつ病・遷延性悲嘆症・PTSDに対する対人関係療法(IPT)の臨床研究を行っております。臨床研究を本格的に始動する前に、日本文化に適応させたIPTをうつ病患者さんに実施した症例について、世界の治療者たちの目に留めていただきたいと考え、患者さんと共著者の先生方のご協力のもと英文雑誌に症例報告として投稿しました。その際、精神療法の詳細を英語圏の方々に伝えることの難しさに直面しましたが、Markowitz先生のご指導により、多くの方々に届く症例報告を作成することができました。その症例報告の投稿過程と内容を皆様に共有させていただきたいと思います。
投稿後、レビュワーより「(一部抜粋)I applaud the authors for writing this report and I think it would be of interest to the IPT community. While the manuscript was fairly well written, there were several areas where the writing and organization was not optimal, and I strongly recommend that the authors seek the assistance of a native English speaker who is knowledgeable about IPT and who can help edit the manuscript so that it is suitable for publication.下線の日本語訳:執筆と構成が最適でない部分がいくつかあったため、著者には、IPTに精通して出版に適した原稿に編集していただける英語ネイティブ・スピーカーの支援を強くお勧めいたします。」というご指摘をいただきました。この指摘を踏まえて、共著者の水島先生に相談の上、水島先生からMarkowitz先生にIPTに精通した後輩の先生を紹介していただけないかと相談いただいたところ、大変有り難いことにMarkowitz先生ご自身からご指導いただけることになりました。異文化でのグリーフとの向き合い方について教えていただいたり、日本文化でのグリーフとの共通点を議論させていただいたり、さらには、レビュワーへの返信についてまでご指導いただいて、私にとっては夢のような時間であり、非常に有益な学びの機会でした。謝辞にMarkowitz先生のお名前を記載させていただきましたが、編集の過程で誤りが生じ、お名前が消えてしまったことは今でも大変残念に思っております。ここで、改めてMarkowitz先生、Markowitz先生をご紹介いただいた水島先生に心より感謝いたします。もしよろしければ、ご覧頂けましたら幸いです。
Toshishige, Y., Kondo, M., Okazaki, J., Mizushima, H., & Akechi, T. (2022). Interpersonal Psychotherapy for Bereavement-Related Major Depressive Disorder in Japan: A Systematic Case Report. Case Reports in Psychiatry.
もう1つ論文を紹介させてください。私は多くの先生方のご協力のもと、持続性抑うつ症(Persistent Depressive Disorder: PDD)を有する女性患者におけるパートナー関係を、神経発達特性の観点から調査しました。研究結果としては、PDDを有する女性患者の自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)または注意欠如多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: ADHD)の特性は、彼女らのパートナー関係の満足度と有意に正の関連を示すことを見出しました。対照的に、彼女らのパートナーのADHD特性は、彼女らのパートナー関係の満足度と有意に負の関連を示すことを見出しました。以上より、PDDを有する女性患者でパートナー関係の満足度が低い場合には、彼女らのパートナーのADHD特性を考慮することが重要かもしれません。そして、もし彼女らのパートナーがADHD特性を有している場合、低いパートナー関係の満足度を改善するためにその特性に焦点を当てた介入戦略を開発する必要があるかもしれません。ただし、この研究にはいくつかの限界があり、説得力が不十分であることを留意してください。こちらの論文も、ご覧いただけますと幸いです。
Toshishige, Y., Kondo, M., Watanabe, T., Yamada, A., Hashimoto, H., Okazaki, J., Tokuyama, N., Kuwabara, J., Mizushima, H., & Akechi, T. (2023). Association between marital satisfaction of female patients with persistent depressive disorder, and their own and husbands’ autism spectrum disorder or attention deficit/hyperactivity disorder traits. Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports, 2(2), e95.
○●実践応用編(オンライン)開催報告 (2023年8月27日)●○ 世話人 岩山 孝幸
8月27日(日)に「実践応用編」をオンラインで開催し、37名もの方にご参加いただきました。今回、IPTを実践して間もない方が発表しやすいように、初めての試みとして「~ケース・フォーミュレーションを学ぶ~」と題して、ケース・フォーミュレーションを共有するまでの「初期」を丁寧に検討する枠を設けました。初めての試みではありましたが、「気持ちに寄り添いつつも情報収集を行うバランスを逐語録で丁寧に検討出来たのが良かった」「IPTを実践し始めた方々のケースをお聞きして、自分だけでなく、他の方々も同じようなことで困ったり悩んだりしていることが分かり、安心しました」という感想をいただきほっとしております。引き続き「初期」検討枠を設け、IPTを実践して間もない方にも発表しやすい環境を整えていきたいと思います。
○●次回、実践入門編(2023年10月29日)・実践応用編(オンライン)(2023年11月19日)開催案内●○ 世話人 岩山 孝幸
昨年度、コロナ禍で中断していた実践入門編を再始動しました。今年度も東京をメイン会場として、名古屋・金沢をサテライト会場に用意し10月29日(日)に実践入門編を対面で開催致します。年に一度の貴重な機会ですので、皆様の周囲でIPTを実践していこうと考えている方や、IPTのエッセンスを臨床に活かしたいと考えている方などがおられましたら是非お声がけをお願い致します。詳細・お申し込みは以下のページをご覧ください。
https://ipt-japan-1029.peatix.com/
また、次回の実践応用編は11月19日(日)にオンラインで開催致します。今回も「初期」検討枠を設けますので、IPTを実践して間もない方でケース・フォーミュレーションにお困りの場合は是非この機会に発表をご検討いただければと思います。詳細・お申し込みは以下のページをご覧ください。
https://ipt-japan-2023-11-19.peatix.com/
○●編集後記●○
最後までニュースレターをお読みいただき、ありがとうございます。コロナ禍のフェーズが変わり、各学会が現地開催されるようになってきました。ですので、私は状況が許せば現地参加しておりますが、学会の現地参加はよいものだなあと改めて思っています(もちろん、オンライン参加もよい点が多くあると思っています)。講演の内容を学ぶだけではなく、演者の話題に込めた熱量を、会場の参加者の熱心な様子とともに体感できることで、一方的にではありますが仲間意識を感じて充実した時間を過ごせ、明日からの臨床・研究の活力になります。また、その土地ならではの料理を仲間とともに味わいながら、講演を聞いた感想や近況を語り合うということで心躍るひと時となり、視覚・聴覚だけではなく味覚・触覚・嗅覚も使って学会を味わうことができます。最近では、大変暑い夏の日に学会に参加をした帰り道、東京駅で抹茶のかき氷を食べながら、現在と将来の臨床研究について大切な仲間と語り合ったことは、汗の感覚と抹茶のかき氷の味ととともに一生忘れることができない思い出となりました。IPT研究会も、オンライン開催で多くの方にご参加いただき有り難い限りですが、将来的に状況が整いましたら、現地開催にて皆様にお会いできるとよいなと思っております。
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