※研究会メーリングリスト配信版と比べ,画像を一部割愛しております

対人関係療法研究会の皆様へ
能登半島地震において、被災された皆様および関係者の方々に心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復旧・復興を願うと同時に、現場で支援に携わっている皆様のご無事を祈っております。
臨床現場でご尽力されている皆様に少しでもお役に立つ情報をお伝えできればという思いで、定期的にIPT-JAPAN通信を発行しております。IPT-JAPAN通信Vol.12では、妊娠中のうつ病に対する短期対人関係療法の効果を示した文献紹介、昨年10月に行われた実践入門編と昨年11月に行われた実践応用編の開催報告、ならびに今年2月に予定されている実践応用編の開催案内についてお伝えいたします。

IPT-JAPAN通信編集委員会

○●文献紹介●○ 世話人 大石 康則

IPT通信では、毎号、IPTに関する様々なトピックや重要な文献などを紹介しています。
今回ご紹介するのは……

妊娠中のうつ病に対する短期対人関係療法の効果:ランダム化臨床試験
Effect of Brief Interpersonal Therapy on Depression During Pregnancy:A Randomized Clinical Trial.
Benjamin L Hankin, Catherine H Demers, Ella-Marie P Hennessey, Sarah E D Perzow , Mary C Curran, Robert J Gallop, M Camille Hoffman, Elysia Poggi Davis
JAMA Psychiatry. 2023 Jun 1;80(6):539-547. PMID: 37074698

2023年6月に発表された論文です。妊娠中に行われたMOMケア(8セッションの短期IPT)とEUC(enhanced usual care:強化された通常ケア)の比較が行われています。

試験の概要は以下の通り。

  1. コロラド州デンバーにある2つの主要医療センターの産科クリニックで募集した妊娠中の個人が対象。
  2. 募集期間は2017年7月~2021年8月(ただしCOVID-19流行のため2020年4月中旬~6月中旬は休止)。
  3. 適格基準は18~45歳、妊娠25週以下、EPDS(エジンバラ産後うつ病自己評価票)スコア10点以上。
  4. 違法薬物の使用、精神病エピソードまたは躁病エピソードの既往、以前に認知行動療法やIPTを受けた人、などは除外。
  5. ベースライン評価は妊娠16週の時点、治療介入は19~32週の期間で行う。
  6. MOMケア群では短期IPTは1回50分を毎週、計8回行う。抗うつ薬の処方も考慮される。
  7. EUCではメンタルヘルスカウンセリングや臨床医による1対1のコンサルテーション、薬物療法などが行われる。
  8. うつ症状の評価にはSCL-20(0~80点)、EPDS(0~30点)を使用した。

結果は……

  • 参加希望者は939名、その中から基準に適合した234名を無作為に振り分けた。
  • 115名がMOMケア、119名がEUCに割り当てられた。
  • 出産までの介入継続率はMOMケアが88%(101/115名)、EUCが87%(104/119名)。
  • SCL-20(症状チェックリスト)スコアの変化
MOMケア EUC
ベースライン(妊娠16週) 26.72 27.05
24週後(妊娠40週) 13.6 23.48
  • EPDSスコアの変化
MOMケア EUC
ベースライン(妊娠16週) 11.42 11.45
24週後(妊娠40週) 5.43 7.75
  • MOMケア群(IPT-group)はEUC群と比較して、1週間あたりSCL-20で平均402ポイント、EPDSで平均0.25ポイントの減少を示した。
    (画像ファイルは割愛)
  • 治療後にDSM-5の大うつ病性障害(MDD)の基準を満たした人の割合は、MOMケア群(IPT-group)6.1%(7/115名)、EUC群26.1%(31/119名)と差がみとめられた(p<0.001)。
    (画像ファイルは割愛)

以上のように、妊娠中に行われたIPTによってうつ症状が大きく軽減することが示されました。SCL-20、EPDSは双方とも“自己評価尺度”という限界はありますが、治療後の構造化面接においてもMDD診断の割合が大きく減少しており、効果としては疑いのないところかと思われます。
特に介入が行われて以降もSCL-20、EPDSのスコアが減少し続けている点が興味深く、8セッションという限られた回数のIPTであっても、そこで得られたスキルが継続的に作用していることが示唆されます。治療終結後に効果が下がるどころか、反対に、持続的に向上することは他の研究を見てもIPTの1つの特徴と言ってよいのではないでしょうか。

今回の文献紹介は以上です。
次号以降もどうぞよろしくお願いいたします。

○●実践入門編(オンライン)開催報告 (2023年10月29日)●○ 世話人 岩山 孝幸

昨年10月29日、東京をメイン会場とし、金沢・名古屋をサテライト会場とする形で、実践入門編を開催いたしました。合計80名を超える方々にご参加いただき、メイン会場だけでなく、サテライト会場からもIPTの具体的な実践に関する熱心な質問が多数寄せられ、IPTへの関心の高さを改めて実感しました。
参加者の皆様からは、「実際の症例ビデオを通じて、IPTの具体的な雰囲気を文字だけでは得られない形で理解でき、非常に有意義でした」「実際の逐語記録から、IPTに特異的なやり取りを詳細に学ぶことができ、日頃の臨床を振り返る良い機会となりました」との貴重な感想をいただきました。
2024年度も実践入門編の開催を予定しております。皆様のご参加を心よりお待ちしております。

○●実践応用編(オンライン)開催報告 (2023年11月19日)●○ 世話人 岩山 孝幸

昨年11月19日(日)、オンラインにて「実践応用編」を開催し、32名の方々にご参加いただきました。当日は、PTSD、過食症、気分変調症など、さまざまな症例に関する発表が行われました。
参加者の皆様からは、以下のような貴重な感想をいただきました。「逐語録が丁寧に示されたおかげで、IPTのプロセス、特にライフチャートや親しさサークルの作成過程、クライエントの理解を深める方法などがより明確になり、IPTの流れを掴むことができました」「クライエントの感情を肯定しつつ、重要な人間関係や行動の変化について一緒に考え、励ます際の具体的な対話や雰囲気作りが非常に参考になりました」。
これらのご意見を受け、IPTの実践における進め方や基本的なアプローチを、参加者の皆様が具体的に学んでいただけたと感じております。今後も引き続き、IPTを実践して間もない方々に向けた「初期」検討枠を設けるなど、IPTの質の向上に努めてまいります。

○●次回、実践応用編(オンライン)開催案内(2024年2月18日)●○ 世話人 岩山 孝幸

次回の「実践応用編」は2月18日(日)にオンラインで開催されます。今回も、IPTを実践し始めたばかりの方々に向けた「初期」検討枠を設けており、すでに2名の方から発表の希望を頂戴しています。
初期のケース・フォーミュレーションの共有までの具体的なプロセスをじっくりと学べる機会になりますので、特にこれからIPTを実践しようとされている方々は是非ご参加をご検討ください。詳細情報やお申し込みについては、以下のページをご覧ください。
https://peatix.com/event/3806462/

○●編集後記●○

最後までニュースレターをお読みいただき、ありがとうございます。2023年12月英科学誌Natureにて「妊娠悪阻の重症度には、胎児のGrowth and differentiation factor 15(GDF15)の産生と母体のGDF15に対する感受性の両方が関連している」ことが報告されました。これまで妊娠悪阻は、原因がはっきりとわからないために、根本的な対処法もなく、周囲の人たちからそのつらさを十分に理解されないこともあったと思いますので、このような基礎的研究は多くの方にとって非常に有益かと思います。この結果に大変刺激を受けたものの、私は基礎的研究を行っておりませんので、今実施している臨床研究で誰かの役に立てるように、尊敬している方達とともに一歩ずつ研究を前進させていきたいと思います。

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