対人関係療法研究会の皆様へ

臨床現場でご尽力されている皆様に少しでもお役に立つ情報をお伝えできればという思いで、定期的にIPT-JAPAN通信を発行しております。日本認知療法・認知行動療法学会におけるIPT教育講演について、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)を専門とされる座長の先生によるご感想をはじめ、日本で実施されたIPT関連論文の紹介を掲載しています。また、10月および12月に開催された実践入門編・実践応用編に参加された皆さまのご感想に加え、12月に開催された公認心理師学会自主シンポジウムの開催報告も紹介します。

IPT-JAPAN通信編集委員会

○●第25回日本認知療法・認知行動療法学会[教育講演]を拝聴して●○ 名古屋市立大学大学院 医学研究科 精神・認知・行動医学 酒井 美枝

皆さま、初めまして。名古屋市立大学大学院 医学研究科 精神・認知・行動医学に所属しております、心理職の酒井美枝と申します。

この度、第25回日本認知療法・認知行動療法学会(2025年11月14日~16日、東京:池袋)におきまして、利重裕子先生に『対人関係療法~うつ病治療の選択肢の一つに~』と題した[教育講演]をご担当いただきました。当日は、複数のプログラムが同時進行する中にもかかわらず、会場には立ち見が出るほど多くの参加者が集まり、先生のご講演、IPTへの関心の高さがうかがえました。

前半では、IPTの概要について、開発の経緯から最新の研究動向に至るまで、体系的にご解説いただきました。後半では、架空症例を用いながら、IPTを実際の臨床でどのように展開していくかを、具体的かつ丁寧にご紹介いただき、非常に理解しやすい内容でした。特に、実践家に向けて日々の臨床にすぐに取り入れられるIPTのエッセンスを「お土産」として提示していただいた点は、フロアのCBTユーザーにとって大変有意義で印象深いものでした。具体的には、①医学モデルを採用して治療可能な病気としてみること、②対人関係上の役割期待に注目すること、③感情と対人関係上の出来事とを関連づけること、④4つの問題領域におけるフォーミュレーションの視点を取り入れること、などが印象に残っています。

私も一臨床心理の実践家として、ご講演で示していただいたエッセンスを、自身の実践にも積極的に取り入れていきたいと考えております。「さらにIPTを学ぶには」という点につきまして、IPT-JAPANの研修会のご案内も賜り、フロア一同、今後の学びの助けとなったものと存じます。

ご多忙の中、このように貴重なお話をお聞かせくださった利重先生に、改めて心より御礼申し上げます。末筆ながら、利重先生をはじめ、ご見識豊かな先生方がご引率されております貴団体の、今後一層のご発展を、心よりお祈り申し上げます。

○●日本で実施されたIPT関連の論文紹介●○ 世話人 近藤 真前

今回は日本で実施されたIPTに関連する研究論文を紹介します。IPTを基盤として開発された、思春期の摂食障害患者の親を対象とする遠隔家族教育・支援プログラムの効果を、ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)によって検証した研究です。

摂食障害を持つ患者に対するIPTの有効性は数々のRCTで示されていますが、本研究の対象は摂食障害患者の「親」です。摂食障害患者の親は心理的負担が重いことが知られており、摂食障害の家族に対するスキルトレーニングや心理教育の研究は数多く存在しますが、IPTを明確に理論枠組みとして組み込み、体系的な集団プログラムを実施した研究は本研究が初めてです。さらに、遠隔形式で実施した点は、専門医療資源が限られる我が国においても実装可能性が高く、臨床的意義は大きいと言えます。

摂食障害の親は「摂食障害の患者の親になった」という役割の変化を経験しますが、摂食障害の多くは思春期に発症するため、同時に「思春期の子の親になった」という役割の変化も経験します。しかし、摂食障害の親は患者本人のことが心配なため保護・干渉の態度が大きくなり、患者が小さな子供ではなく思春期であるにも関わらず、患者の意思や主体性を尊重することが難しくなります。それにより親子関係に葛藤や緊張が生まれ、患者の摂食障害症状の持続に影響し、同時に親の心理的負担も重くなると考えられます。

このような背景から、本研究では「役割の変化」に焦点化した家族教育・支援プログラムが開発されました。150分×4回のオンライン集団プログラムであり、各回は①講義、②ロールプレイ、③支持的グループ療法の三部構成となっています。講義では、参加者は自分がどのような役割の変化に巻き込まれていて、その結果、患者との間にどのような役割期待のズレが生じているのかを理解し、積極的傾聴スキル等の役割の変化に適応するために必要なスキルを学びます。第3・4回では特に重要なテーマとして、具体的な事例を用いながら、摂食障害を抱えた思春期の子と親の間に生じやすい役割期待のズレを学びます。次のロールプレイでは、参加者が日常で実際に困った場面を取り上げてロールプレイを行います。最後の支持的グループ療法では通常の家族心理教育と同様に、問題解決技法を用いて参加者を支援しています。

67名の親を対象としたRCTの結果、主要評価項目である親の能動的傾聴態度は介入8週後に有意な改善を示しました。介入群と待機対照群の差は3.68点(95%CI:1.89–5.48、p<0.001)であり、臨床的にも意味のある変化と考えられます。また、親が感じる社会的支援感も有意な改善を示しました。一方で、患者の摂食障害症状には有意差は認められませんでした。

本研究は、摂食障害臨床における親の支援にIPTが活用できることを示しています。摂食障害の患者自身への心理的支援にも本研究が非常に参考になるでしょう。

○●ワークショップ&シンポジウム開催報告●○ 世話人 岩山 孝幸

実践入門編(2025年10月12日開催)

全国から70名にご参加いただきました。当日は、IPTの基本的な構造と実践について、逐語録や実際の症例、症例ビデオを用いた研修を行い、ケース全体の流れや治療者の関わり方を学んでいただきました。感想では、「本だけでは理解しきれなかった部分がイメージしやすくなった」「逐語をもとに具体的な対応が思い描けた」といった声が多く寄せられました。さらに、「15分ずつ小分けにして外来診療に取り入れられる点が参考になった」「50分枠が確保できない現場でも、IPTのエッセンスとして活用できると感じ、前向きになれた」など、臨床現場のさまざまなニーズへの応用可能性を実感する声も聞かれました。2026年も10月頃の開催を予定しております。

公認心理師学会自主シンポジウム(2025年12月7日開催)

本企画は日本公認心理師協会・東京公認心理師協会主催の公認心理師学会における自主シンポジウムとして開催され、当日は約60名もの方にご参加いただきました。対人関係療法(IPT)の枠組みが医療と心理支援の双方に共通する基盤となり得る点に注目し、IPT-JAPAN世話人である精神科医と公認心理師の2名が、PTSDの症例および摂食障害を抱える思春期の症例をもとに、IPTにおけるケースフォーミュレーションと治療の進め方を紹介しました。専門職の違いを越えて共有可能な枠組みとしてのIPTの有用性や、今後の医療・心理支援の協働の可能性について理解を深める機会となりました。

実践応用編(2025年12月14日開催)

今回の実践応用編では、妊娠・出産・育児といったライフイベントを背景に、パートナーや家族との関係が揺れる周産期の症例を多く取り上げ、直近の具体的な出来事と、そこで生じた感情を手がかりに、問題領域や目標を整理していくプロセスを検討しました。感想では、「直近のエピソードをもとにフォーミュレーションしていく視点がとても分かりやすかった」「概念的な話に終わらず、具体的な出来事とその時の感情を丁寧に扱うことの大切さを実感した」といった声が寄せられました。

○●編集後記●○

最後までニュースレターをお読みいただき、ありがとうございます。ある研修会にオブザーバーとして参加した時の個人的な感想をお話させていただけたらと思います。その研修会では、「職業的自己(専門的スキル)」と「個人的自己(人格)」が高次に統合されることで、専門的成長が促される、という論文が紹介されていました。続くプログラムでは、ある精神療法の領域で、長年第一線でご活躍されている先生のご講演を拝聴しました。印象的だったのは、ご自身の「失敗事例」を率直に提示されていたことです。失敗は語りにくいものですが、再現性があるからこそ学びにつながる――参加者のためにあえて共有してくださったのだと感じました。もちろん、多くの学びを得ることができました。また、その先生は等身大にご講義をされ、オブザーバーであった私にまでさりげない気遣いを向けてくださいました。その先生の人格に少しだけでも触れることができたことで、帰りの新幹線では、「あの先生みたいになりたいな」「少しでも近づけるように頑張ろう」という気持ちが、自然に湧いてきました。
講演では、有効な精神療法を行う精神療法家ほど自己批判的であるという研究も紹介されていました。専門的スキルを磨くことはもちろん重要ですが、人格を磨くことは、同時に、あるいはそれ以上に、専門的成長にとって重要なのではないかと私自身は感じました。そのように感じながら、「謙虚な気持ちで日々を省み、驕り高ぶりを抑える心を忘れてはならない」という、私が尊敬している稲盛和夫氏の書籍にある言葉を思い浮かべ、帰路につきました。

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