※研究会メーリングリスト配信版と比べ,画像を一部割愛しております

対人関係療法研究会の皆様へ
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染流行により、それまでの生活を大きく変化せざるを得ない状況が続き、対人関係療法研究会の皆様も多大なご苦労をされていらっしゃると思います。また、生活の大きな変化がきっかけで気持ちの落ち込みや不安を抱える方も多く、皆様のところに相談に来られる方も多くなっているのではないかと想像します。その中にはうつ病と診断される方も少なくなく、治療の選択肢としてIPTを考える場合もあるのではないでしょうか。IPT-JAPAN通信Vol.2では、はじめに、IPTの創始者の一人であるワイスマン博士から皆様に宛てたレターをお伝えします。ワイスマン博士は、現在、コロンビア大学の疫学・精神医学教授および、ニューヨーク州立精神医学研究所の臨床遺伝疫学部門のチーフとしてご活躍され、世代間のうつ病の伝播、伝播および治療反応のバイオマーカー、低所得の国における心理療法の実施に関する研究にご尽力されています。次に、臨床場面でお役に立てればという思いを込めて、うつ病に対するIPTの研究ならびに、うつ病の評価尺度についてご紹介いたします。

IPT-JAPAN通信編集委員会

○●Meet the Experts●○ Myrna M. Weissman, Ph.D.

To members of IPT-Japan  IPT研究会の皆様

It is a pleasure to send a message for my friend and highly distinguished colleague, Hiroko Mizushima M.D., PhD to Japanese IPT-ers. I send this message in the midst of the pandemic when I am gathering with my family from all over, wearing masks to protect each other from the virus. This strange scene highlights my message to IPT-Japan. We are all related globally and have an obligation to help and protect each other. It is with this sentiment that I welcome you to the Interpersonal Psychotherapy (IPT) world community.

私の友人であり、素晴らしい同志でもある水島広子博士からの依頼で、日本のIPT治療者・研究者のみなさんにメッセージを送ることを嬉しく思います。新型コロナウイルスのパンデミックのさなか、私は、家族みんなと集まり、ウイルスからお互いを守るためにマスクをしながら、このメッセージを書いています。この奇妙な光景は、日本の対人関係療法研究会のみなさんにあてた私のメッセージを際立たせています。私たちは国を越えてつながっており、お互いを助け、守る義務を負っています。私が対人関係療法(IPT)の世界的コミュニティに皆さんを歓迎するのは、そういう思いからでもあります。

IPT had a humble beginning from my late husband Gerald Klerman, M.D. He was carrying out the first study to test how to prevent relapse of depression using medication and/or psychotherapy in patients who had remitted on an anti-depressant. In order to carry out the study he needed to define the psychotherapy so the therapist could be trained, Gerry and I worked together on developing IPT. Thus, came the first manual of IPT. Aaron Beck, M.D. was developing Cognitive Behavioral therapy (CBT) at the same time. They were friends. The history of IPT development can be found in Weissman, 2020.

IPTは、私の亡き夫ジェラルド・クラーマン(精神科医)によって控えめに※始められました。彼は、抗うつ薬によって寛解した患者の再燃防止のために、薬物療法あるいは精神療法を用いる最初の研究を行っていました。この研究を行うためには、精神療法を定義づけて、治療者がトレーニングを受けられるようにする必要がありました。ジェリー(クラーマン)と私は、IPTの開発のために共に働いたのです。そのようにして、IPTの最初のマニュアルができました。同じ時期に、アーロン・ベック医学博士も認知行動療法(CBT)を開発していました。クラーマンとベックは友人でした。IPT開発の歴史については、2020年の文献(ワイスマン)で知ることができます。

※訳注 新しい精神療法を作ることを意図しなかったにもかかわらず、結果として高い効果が示され臨床研究の中で生き残ってきました

In 2020 there are over 140 clinical trials. IPT has been adapted for different disorders, age groups, formats (group, brief) and translated into numerous languages (see Weissman et al 2018). IPT is part of numerous clinical guidelines and is recommended by the World Health Organization (WHO). There is now an international society (isIPT). The international society is here to encourage a global community of IPT’ers, distribute new information to disseminate IPT and maintain high standards of training and practice.

2020年現在、140を超える臨床研究が行われています。IPTは、様々な疾患、年齢層、治療フォーマット(グループ療法、短期療法)に適用され、たくさんの言語に訳されてきました(ワイスマンほか、2018)。IPTは多数の治療ガイドラインに含まれており、世界保健機関(WHO)によって推奨されています。国際学会(isIPT)もできました。国際学会は、IPT治療者・研究者の世界的コミュニティを元気づけ、IPTの普及のために新しい情報を提供し、トレーニングと実践に関する高い水準を維持する役割を持っています。

Your leader Dr. Mizushima is an IPT trainer and supervisor authorized by isIPT. We are here to help IPT practitioners and researchers and to protect the standards. We welcome you to the community and hope you will join isIPT and come to our virtual international meeting in 2021.

皆さまのリーダーである水島博士は、isIPTによって認定されたIPTのトレーナーであり、スーパーバイザーです。私たちは、IPTの臨床家と研究者が水準を守ることができるように手助けをする役割を持っています。皆さまを、IPTコミュニティに歓迎するとともに、皆様がisIPTに加わり、2021年に開かれるオンラインでの国際学術総会に参加されることを願っています。

Myrna M. Weissman, Ph.D.,  マーナ・M・ワイスマン
Diane Goldman Kemper Family
Professor of Epidemiology and Psychiatry
Columbia University Vagelos College of Physicians and Surgeons
Chief, Division of Translational Epidemiology
New York State Psychiatric Institute
1051 Riverside Drive -Unit 24
New York, NY 10032

Myrna.Weissman@nyspi.columbia.edu
References
1) Weissman MM. Interpersonal Psychotherapy: History and Future, American Journal of Psychiatry 2020, 73; 3-7
2) Weissman MM, Markowitz JC., Klerman GL. A Guide to Interpersonal Psychotherapy. Oxford University, Press, 2018
Disclosures
M. Weissman receives royalties from her books on IPT. However, a free manual can be received by emailing her.

○●文献紹介●○ 世話人 大石 康則

IPT-JAPAN通信Vol.2からは、毎号、IPTに関する様々なトピックや重要な文献などを紹介していく予定です。
今回ご紹介するのは……

MM Weissman, BA Prusoff, A Dimascio, C Neu, M Goklaney, GL Klerman
The efficacy of drugs and psychotherapy in the treatment of acute depressive episodes
(急性期うつ病エピソードの治療における薬物療法と精神療法の効果)
Am J Psychiatry. 1979 Apr; 136(4B): 555-8.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/371421/

巻頭でご挨拶いただいたワイスマン博士らによって1979年に発表された、IPT最初の無作為化比較試験――ボストン-ニューヘイブン研究からの論文です。当時、急性期うつ病エピソードに対する薬物療法の効果は、すでに多くの論文によって示されていましたが、精神療法による治療効果はまだ充分に検討されていませんでした。
この研究では、薬物療法(抗うつ薬アミトリプチリン100-200mg)とIPT、およびその併用療法、不定期治療(必要時に支持的精神療法が受けられる)による治療効果を、無作為化比較試験(RCT)によって検証しています。

解析対象となったのは、単極性の大うつ病性障害患者81名。そのうち20名が薬物療法、17名がIPT、23名が併用療法、21名が不定期治療(希望時に支持的精神療法が受けられる)を行いました(全16週間)。
そのうち、
・症状が悪化し、他の治療介入が必要になった者
・症状の改善がない、または8週以降にうつ症状が強い者(Raskinうつ病スコア≧9点)
は「状態不良」として治療を中断。
各グループにおける「状態不良の割合」(percent of patients with symptomatic failure:グラフ縦軸)を比較することよって、その治療効果を検討しています。

結果は……

(グラフ割愛)

・併用療法23名→(状態不良1名(4.3%)、その他の理由による治療中断6名)→完遂者16名(69.5%)
・IPT17名→【状態不良3名(17.6%)、その他の理由による治療中断2名)→完遂者12名(70.5%)
・薬物療法20名→【状態不良5名(40%)、その他の理由による治療中断7名】→完遂者8名(40%)
・不定期治療21名→(状態不良11名(52.3%)、その他の理由による治療中断3名)→完遂者7名(33.3%)
でした。
こうして見ると、やはり不定期治療は「状態不良」による治療中断が多いですね。対して、IPTや併用療法のグループは完遂者の割合が高いように思えます。

統計的な比較では
・IPT>不定期治療(p<0.05)
・IPT、薬物療法の両群に有意差なし
・IPT、併用療法の両群に有意差なし
と、IPTは急性期のうつ病に効果があることが示されました。

この研究以降、数多くの臨床研究が行われ、うつ病に対するIPTの治療効果はさらに明確なものとなりました。
2016年に発表されたメタアナリシス(P Cuijpers et al.: Interpersonal Psychotherapy for Mental Health Problems: A Comprehensive Meta-Analysis. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27032627/)の中でも……

●急性期うつ病に対するIPTの治療は対照群よりも症状を緩和し、効果量も中等度~大である(Hedges’g=0.60)。

(グラフは元論文のFIGURE1をご参照ください→https://ajp.psychiatryonline.org/doi/full/10.1176/appi.ajp.2015.15091141

※すべての研究結果を統合したものが◆で示されていますが、この値が0を超えている(0より右にある)ためIPTには有意な効果があることが分かります。

●IPTと薬物療法の治療効果は同等(ただし、IPT+薬物療法はIPT単独の治療効果を上回る)
●IPTはうつ病の発症予防に効果がある
●IPTはうつ病の再発予防に効果がある(維持IPT+薬物療法>薬物療法;維持IPT=薬物療法)

などの結果が示されています。

この解析で示された通り、IPTはうつ病に対する治療法として、発症前・急性期・維持期の全ての段階で有効と言えます。特に維持療法に関して、薬物療法にIPTを上乗せすることでさらに再発が予防できる点が示された意義は大きいように思えます。

今回の文献紹介は以上です。
次号もどうぞよろしくお願いいたします。

○●うつ病の評価尺度について●○ 世話人(書記) 利重 裕子

先の論文紹介でもあったように、IPT研究では治療の効果を実証するために、うつ症状を客観的に評価できる評価尺度を用いることが一般的です。このような評価尺度は、日々の臨床場面においても使用することができ、例えば、治療開始前、(治療中)、終結後に実施することで、IPTが効果的な変化をもたらしているかを把握することが可能です。今回は、患者(クライアント)さん本人が質問項目を読み、回答を記入する自己記入式の質問票の中で、短時間で回答することができるPHQ-9と BDI-Ⅱという代表的な評価尺度についてご紹介します。

★PHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)
PHQ-9は、多忙なプライマリケア医がうつ病のスクリーニングと重症度評価を短時間で行うことができるように開発された評価尺度で、DSM-IVの診断基準に基づく9つの質問項目から構成されています。回答者は、直近2週間における各質問項目の頻度が問われ、4つの選択肢(「全くない:0点」「数日:1点」「半分以上:2点」「ほとんど毎日:3点」)から当てはまる1つを選ぶことが求められます。うつ病の重症度は、全9項目の総得点(0~27点)で評価され、得点別重症度は下記のようになります。
0~4点:うつ状態なし
5~9点:軽度
10~14点:中等度
15~19点:中等度~重度
20~27点:重度
また、治療開始前と終結後のPHQ-9総得点を比較して、5点以上低下した場合には治療が効果的な変化をもたらしたと評価できます(Lowe,2004)。

PHQ-9は、臨床場面で使用する際には、以下のURLから無料で使用できます。実施時間は1分程度で終えることができ、臨床場面では非常に実用的な評価尺度です。

https://www.cocoro.chiba-u.jp/recruit/tubuanDB/files/PHQ-9.pdf

★BDI-Ⅱ(Beck Depression Inventory-Ⅱ)
BDI-Ⅱは、 認知療法の開発者であるベック博士により開発されたBDIを DSM-IV に基づき改訂された評価尺度で、身体面・感情面・認知面に関する21つの質問項目から構成されています。回答者は、直近2週間において、各質問項目の頻度・程度が問われ、4つの選択肢から当てはまる1つを選ぶことが求められます。うつ病の重症度は、全21項目の総得点(0~63点)で評価され、得点別重症度は下記のようになります。
0~13点:極軽症
14~19点:軽症
20~28点:中等症
29~63点:重症
また、治療開始前と終結後のBDI-Ⅱ総得点を比較して5点以上低下した場合には治療が効果的な変化をもたらしたと評価できます (Hiroe,2005)。

BDI-Ⅱは、以下の日本文化科学社などで有料販売されており、購入の必要があります。実施時間は、PHQ-9よりは少し長い5-10分を要するとされています。

https://www.nichibun.co.jp/kensa/detail/bdi2.html

<参考文献>
★Lowe B, Unutzer J, Callahan CM, Perkins AJ, Kroenke K. Monitoring depression treatment outcomes with the Patient Health Questionnaire9. Med Care 2004; 42: 1194–201.
★Hiroe T, Kojima M, Yamamoto I, Nojima S, Kinoshita Y, Hashimoto N, et al. Gradations of clinical severity and sensitivity to change assessed with the Beck Depression Inventory-II in Japanese patients with depression. Psychiatry Res 2005; 135: 229–35.

○●編集後記●○

最後までニュースレターをお読みいただき、ありがとうございます。まだまだIPTについて勉強の道半ばの編集者ですが、自身のIPTの質を少しずつでも高めていくために心がけていることを述べたいと思います。まずは論文(最初はレビュー論文がよいと思います)を読み、IPTがどの疾患にどの程度の効果があるかを知ることが大切だと考えています。効果が全く認められていない疾患に対してIPTを行うことは、患者(クライアント)さんが効果的な治療を受ける時間を奪うことになります。次に、自分が治療できる範囲で圧倒的な量の実践を行うことが大事なのではないかと感じています。実践を行う際には、患者(クライアント)さんと治療者(セラピスト)が、現在存在している症状とIPTによる症状の変化を客観的に知り、共有するために、評価尺度を用いて測定することも必要だと思います。しかし、量をこなすだけでは、独りよがりの治療になってしまう恐れがあります。そうならないようにするために、改善点がないか、自ら振り返るとともに、仲間と意見交換をすることや、IPT研究会など(将来的にはスーパーバイズも・・)で質の高い治療者の意見を伺うことが大切なのではないかと考えています。まだまだコロナ感染症は終息する気配がありませんが、治療を必要とされる患者(クライアント)さんに対して、コロナ感染に十分気を付けながら、明日からまたIPT治療にあたりたいと思っています。

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