※研究会メーリングリスト配信版と比べ,画像を一部割愛しております

対人関係療法研究会(IPT-JAPAN)の皆さまへ
COVID-19のワクチン接種が開始されたとはいえ、各地で感染再拡大が続いている中、様々な分野の最前線で患者(クライエント)さんの治療(カウンセリング)にご尽力されている皆さまには、心から敬意を表します。皆さまに少しでもお役に立つ情報をお伝えできればという思いで、定期的にIPT-JAPAN通信を発行しております。IPT-JAPAN通信Vol.4では、双極性障害の治療法である対人関係・社会リズム療法(IPSRT)の開発者であるエレン・フランク博士から皆さまに宛てたレターをお伝えします。続いて、エレン・フランク博士が主任研究者を務められた「反復性うつ病の女性に対する維持IPT」の研究、オンライン特別編開催報告ならびに、マーコウィッツ教授が執筆された「IN THE AFTERMATH OF THE PANDEMIC」についてお伝えいたします。

IPT-JAPAN通信編集委員会

○●Meet the Experts●○ Ellen Frank, Ph.D.

In the 1980’s, in the U.S. at least, the consensus was that while bipolar disorder was a chronically recurring disorder, unipolar depression was not. Therefore, individuals with bipolar disorder were assumed to need long-term maintenance pharmacotherapy, but individuals with unipolar disorder could be treated to episode resolution and then discontinued from medication. The NIMH had just completed a multi-center study led by Robert Prien (Prien et al, 1984) that looked at the need for long-term pharmacotherapy in both bipolar and unipolar disorder. To the field’s surprise, the study demonstrated the clear benefit of long-term pharmacotherapy in unipolar depression as well.

1980年代、少なくとも米国では、双極性障害は慢性的に再発する疾患で、単極性うつ病はそうではないという見解で一致していました。 そのため、双極性障害の患者には長期にわたる維持的な薬物療法が必要であると考えられていましたが、単極性障害の患者にはエピソードが消失するまで治療し、その後は薬物療法を中止することができると考えられていました。ちょうどこの頃、NIMH(米国国立精神保健研究所)では、Robert Prienが中心となって行った多施設共同研究(Prien et al, 1984)が完了したところで、この研究では双極性障害と単極性障害の両方に長期の薬物療法の必要性があるのかについて検討が行われました。なんとこの研究から明らかになったのは、単極性うつ病にも長期の薬物療法が有効であるということで、この分野に驚きをもたらしたのです。

What struck investigators at the Pittsburgh site of the Prien et al, study was that even though there was a clear benefit to so-called maintenance (i.e. lower) dose pharmacotherapy, less than half of the unipolar patients who received maintenance medication remained well for the two years of maintenance trial. We also observed that those patients who did remain symptomatically well, continued to show marked deficits in social functioning. So, we asked two questions: 1) would maintaining patients on the dose of pharmacotherapy used to treat the acute episode, lead to better outcomes and 2) would the addition of a psychotherapy that focused on social functioning, i.e. a maintenance form of interpersonal psychotherapy, improve outcomes?

しかしながら、Prienらの研究を行ったピッツバーグの研究者が驚いたのは、いわゆる維持量(すなわち、低用量)の薬物療法※1に明確な効果があるにもかかわらず、維持の薬物療法を受けた単極性うつ病患者のうち、2年間の維持療法の試験期間中に良好な状態を維持できたのは、半数以下だったということでした。 さらに、良好な状態を維持していた患者であっても、社会的機能が著しく損なわれていることも示されました。 これらのことで、私たちは2つの疑問を持ちました。1)急性期に使用された用量の薬物療法を患者に維持療法として行うことは、より良い結果につながるのか?2)社会的機能に焦点を当てた精神療法、すなわち対人関係療法を維持療法として追加することは、より良い結果につながるのか?
※1注釈 この研究で維持期の最初に使用された薬物療法は、イミプラミン平均137mg/日(範囲は75mg-150mg)であった。

The study we conducted (Frank et al, 1990) produced two unexpected results. First, maintaining patients on full-dose pharmacotherapy kept almost all patients with recurrent unipolar depression well for three years and, second, monthly sessions of IPT alone was significantly better in maintaining wellness than monthly clinic check-in visits without pharmacotherapy or maintenance IPT.

私たちが行った研究(Frank et al, 1990)では、2つの予想外の結果が得られました。 一つ目は、用量を減らさずに薬物療法を維持すること※2で、反復性の単極性うつ病患者のほぼ全員が3年間良好な状態を維持できたことです。そして二つ目は、薬物療法も維持IPTもない月1回の診察よりも、月1回のIPTのほうが、患者の良好な状態をより維持できたということです。
※2注釈 この研究で維持期に使用され続けた薬物療法は、イミプラミン平均208±6mg/日(範囲は50-350mg/日)・中央値200mg/日であった。

These results led us to examine whether increasing the ‘dose’ of maintenance IPT could lead to even better outcomes, a question we addressed in a group of women of child-bearing age who suffered from recurrent unipolar disorder (Frank et al, 2007). Interestingly, we found that among women whose index episode was successfully treated with IPT, there was no added benefit to weekly or biweekly maintenance IPT sessions relative to monthly sessions and that IPT provided good prophylaxis to all three groups studied. While those women who initially required the addition of pharmacotherapy achieve remission were less likely to remain well on maintenance IPT alone, again there was no added benefit to more frequent sessions.

これらの結果を受けて、私たちは、維持IPTの“用量”を増やすことでさらに良い結果につながるかどうかについて、反復性のうつ病を患っている妊娠可能な年齢の女性を対象に研究を行いました(Frank et al, 2007)。 興味深いことに、IPTが奏功した女性に関しては、週1回または隔週の維持IPTセッションが、月1回と比較してより有益であるということは認められませんでした。しかし、セッションの頻度とは関係なくIPT自体には良好な再発予防効果が示されました。一方で、寛解を得るために最初に薬物療法を追加する必要のあった女性に関しては、維持IPTのみで良好な状態を維持する可能性は低く、セッションの頻度を上げてもプラスの効果は見られませんでした。

References
1. Prien RF, Kupfer DJ, Mansky PA, Small JG, Tuason VB, Voss CB, Johnson WE. Drug therapy in the prevention of recurrences in unipolar and bipolar affective disorders: a report of the NIMH Collaborative Study Group comparing lithium carbonate, imipramine, and a lithium carbonate-imipramine combination. Arch Gen Psychiatry. 1984;41:1096-1104.
2. Frank, E., Kupfer, D.J., Perel, J.M., Cornes, C.L., Jarrett, D., Mallinger, A., Thase, M., McEachran, A.B., and Grochocinski, V.J. Three year outcomes for maintenance therapies in recurrent depression. Archives of General Psychiatry, 47:1093-1099, 1990
3. Frank, E., Kupfer, D.J., Buysse, D.J., Swartz, H.A., Pilkonis, P.A., Houck, P.R., Rucci, P., Novick, D.M., Grochocinski, V.J. and Stapf, D.M. A randomized trial of weekly, biweekly and monthly interpersonal psychotherapy as maintenance treatments for women with recurrent depression. American Journal of Psychiatry, 164(5):761-767, 2007

○●文献紹介●○ 世話人 大石 康則

IPT通信では、毎号、IPTに関する様々なトピックや重要な文献などを紹介しています。
今回ご紹介するのはエレン・フランク博士が寄稿してくださった「Meet the Experts」でも取り上げられている研究です。

反復性うつ病の女性に対する維持IPT――週1回、月2回、月1回治療の無作為化比較試験
Randomized Trial of Weekly, Twice-Monthly, and Monthly Interpersonal Psychotherapy as Maintenance Treatment for Women With Recurrent Depression.
Ellen Frank, Ph.D. David J. Kupfer, M.D. Daniel J. Buysse, M.D. Holly A. Swartz, M.D. Paul A. Pilkonis, Ph.D. Patricia R. Houck, M.S.H. Paola Rucci, Ph.D. Danielle M. Novick, M.S. Victoria J. Grochocinski, Ph.D. Deborah M. Stapf, B.S. Am J Psychiatry. 2007; 164: 761-767.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17475735/

2007年当時、月1回の維持IPTがうつ病の再発予防に有効であることは既に示されていました。この研究ではセッションの頻度によって治療効果が変わるのかどうかを、無作為化比較試験によって検証しています。

対象者は、非薬物療法を希望する20~60歳の反復性うつ病*1女性233名。以下の手順で治療が行われました。
※1注釈 今回を含めて少なくとも2回以上うつ病エピソードを経験している。

(図は元論文のFigure 2をご覧ください)

結果は……

【IPT単独治療後の維持IPTの場合】
✓ 週1回治療群は33人中6人がうつ病エピソード再発、11人がその他の理由で脱落。
✓ 月2回治療群は35人中8人がうつ病エピソード再発、4人がその他の理由で脱落。
✓ 月1回治療群は31人中5人がうつ病エピソード再発、10人がその他の理由で脱落。

・各群における再発率、再発までの期間に有意差はなかった。
・月2回治療群は脱落率が低い傾向にあった(p=0.06)
・全体の再発率は26%で、再発の大部分(79%)は維持治療開始から1年の間に発生した。

【IPT+薬物療法後の維持IPTの場合】
✓ 週1回治療群は10人中2人がうつ病エピソード再発、4人がその他の理由で脱落。
✓ 月2回治療群は9人中6人がうつ病エピソード再発、1人がその他の理由で脱落。
✓ 月1回治療群は13人中5人がうつ病エピソード再発、1人がその他の理由で脱落。

・各群における再発率、再発までの期間に有意差はなかった。
・全体の再発率は50%であった。

という結果でした。

セッションの頻度が違っても再発率、再発までの期間に差はみられず、維持IPTは月1回のペースでも充分な治療効果を発揮すると言えます。しかしIPT単独治療後の維持IPTにおいて、月2回治療群の脱落率だけが非常に低くなっており、このぐらいのペースが最もクライエントのモチベーションを保ちやすいということはあるかもしれません。

また、維持治療期間における「IPT単独治療後の群」と「IPT+薬物療法後の群」の再発率の比較は以下の通りです。

(グラフは元論文のFigure 3をご覧ください)

グラフからわかるように「IPT+薬物療法後の群」の方が再発率が高くなっています(p<0.02)。ただしこの群は寛解を得るためにIPTに加えて薬物療法を必要としており、その薬物療法を中止していることを考慮に入れる必要があります。なお本論文の考察には、IPT+薬物療法後の維持治療について調べた研究(E Frank, et al. Three-year outcomes for maintenance therapies in recurrent depression. Arch Gen Psychiatry. 1990 Dec;47(12):1093-9.)の記載があり、そこでは「抗うつ薬を継続した場合に再発率が低く抑えられた」と述べられています(薬物療法+維持IPTの再発率は2年間で20%)。

今回の文献紹介は以上です。
次号もどうぞよろしくお願いいたします。

○●特別編(オンライン)開催報告(2021年5月2日)●○ 世話人 岩山 孝幸

5/2(日)に、オンラインワークショップ「特別編」を実施しました。「特別編」は、当研究会代表世話人の水島広子が治療者役、発表者が患者(クライエント)役になり、ロールプレイ形式でIPT治療者としての態度やふるまいを体験的に学べる機会となっています。これまでのワークショップのアンケートからは、「日ごろのIPT実践におけるちょっとした困りごとを相談したい」というニーズも寄せられていました。このような皆さまからのご要望も踏まえて、今回は標準的な治療場面のIPTだけではなく、子育て相談や上司-部下の関係、中断したケースなど、などさまざまなケースが対象となりました。また、発表者の方のIPTの実践歴も短い方から長い方まで幅広く、様々な観点から学ぶ機会となりました。
当日はオンライン開催ということもあり、全国から40名を超える方々にご参加いただきました。アンケートからも、「自分が担当しているケースと似た発表があり、どのように関わったら良いか困っていたので、ロールプレイを通じて具体的なやり取りのヒントが得られて参加して良かった」という感想が多く得られました。また、「適応障害の背景にあるトラウマに目を配れるようにしたい」「つい修正したくなる行動の背景にも、その人なりの思いがあり、その価値観を尊重することで治療が進んでいくという当たり前のことに改めて気づかされた」「専門職として心理教育を行うからこそ、安心してもらえるのだと痛感し、尻込みせず勇気を持って言葉にしていこうと思えた」という感想も多くいただきました。
ロールプレイで実際のやり取りを間近で体験できる特別編だからこそ、よりIPTの雰囲気を感じ取っていただけたものと思います。次回以降も、IPTを実践していきたいと思ってもらえるようなワークショップを開催していきたいと思っております。皆さまのご参加を心よりお待ちしております。

○●書籍の紹介●○

マーコウィッツ教授が、COVID-19パンデミックやその他の大規模災害の心理的影響に対処するために、下記のIPT治療マニュアルを執筆されました。残念ながら、現時点では日本語への翻訳はされていませんが、マーコウィッツ教授が書かれる英語の文章は私たち日本人にもわかりやすいものとなっておりますので、是非ご覧いただけますと幸いです。
In the Aftermath of the Pandemic: Interpersonal Psychotherapy for Anxiety, Depression, and PTSD: 9780197554500: Medicine & Health Science Books @ Amazon.com

○●編集後記●○

最後までニュースレターをお読みいただき、ありがとうございます。今回は“病歴聴取に基づく的確な診断”と“安心・安全な治療関係”について述べたいと思います。先日、私が以前から尊敬するA先生から精神療法を目的として患者(クライエント)さんを紹介していただきました。私がはじめて患者(クライエント)さんにお会いした際、「どうして辛いのかもわからず長い間苦しんできたが、A先生に出会って救われた」と涙されていました。患者(クライエント)さんのお話を伺うと、A先生が丁寧な病歴聴取に基づく的確な診断を行った上で適切な薬物療法を行い、安心・安全な関係の中で徹底した心理教育をされていることが伝わってきました。“病歴聴取に基づく的確な診断”と“安心・安全な治療関係”は、IPTに限らず精神療法・カウンセリングの土台となる基礎的なことではありますが、私自身が患者(クライエント)さんを通してA先生の診療を目の当たりにして、これらの重要性を改めて痛感する出来事でした。最後に、A先生はじめ多くの先生方からこれまで学ばせていただき、安心・安全な治療の場を作るために私なりに大切にしていることは、専門家として・1人の人間として「患者(クライエント)さんの気持ちを理解し、症状改善するための最大限の努力をする」という姿勢とともに、「患者(クライエント)さんと同じ体験をしていないので、100%同じ気持ちを感じることは難しい」という謙虚さです。コロナ禍が落ち着いたら、以前のようにA先生と仲間たちと食事をしながらお話をさせていただくことを楽しみにして、自己研鑽に努めたいと思います。

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