対人関係療法研究会の皆様へ

日頃より対人関係療法研究会の活動にご理解いただき、感謝申し上げます。臨床現場でご尽力されている皆様に少しでもお役に立つ情報をお伝えできればという思いで、定期的にIPT-JAPAN通信を発行しております。IPT-JAPAN通信Vol.5では、米国ピッツバーグ大学医学部精神医学教室の教授で、American Journal of Psychotherapyの編集長でもあるホリー・スワルツ教授から皆様に宛てたレターをお伝えします。ホリー・スワルツ教授は、前回の通信でもご紹介しましたエレン・フランク博士とともに、とくに双極性障害に対する対人関係・社会リズム療法(IPSRT)の臨床研究にご尽力されています。続いて、双極性障害に対するIPSRT等の臨床研究、2021年度isIPT(国際対人関係療法学会)会議および次回オンライン実践応用編の開催についてお伝えいたします。

IPT-JAPAN通信編集委員会

○●Meet the Experts●○ Holly Swartz, M.D.

I am tremendously honored to be asked by your distinguished IPT expert and leader, Hiroko Mizushima, to contribute a message to your IPT Newsletter. Because IPT focuses on relationships, I have always felt that those who practice IPT are especially attuned to the nuances of human interactions, both in the therapy room and in the broader community. Therefore, I wish to share with you, my fellow IPT therapists, some musings on global connections.

著明なIPTの専門家であり、リーダーでもある水島広子氏から、IPT通信へのメッセージの寄稿を依頼していただき、大変光栄に思います。IPTは対人関係に焦点を当てていますから、IPTを実践している人たちは、治療の場においても、より広いコミュニティにおいても、特に対人関係の機微に敏感であるといつも私は感じてきました。ですので、私の仲間であるIPTセラピストの皆さんと、世界的なつながりについての思いを共有したいと思います。

As we face the one-and-a-half-year mark of the COVID-19 pandemic, global interconnectedness is more starkly apparent than ever. Beginning in January 2020, the SARS-CoV-2 virus marched ineluctably across cities and nations until the virus that causes COVID-19 was found on every continent. No one was safe from its spike protein. Variants of the virus arising in one country soon materialized in another, hopscotching across the artificial divides of language, ethnicity, and race. Lockdowns, curfews, and state emergencies affected everyone, leading to economic hardship, social isolation, and increased rates of mental illness. The pandemic teaches us that we are physiologically and psychically interconnected despite geographic distances. This lesson remains painfully relevant the as the virus continues to rage out of control in many places, mutating in ways that may ultimately render current vaccines ineffective. The COVID-19 pandemic reminds us that what affects one of us affects all of us.

COVID-19のパンデミックから1年半が経過した今、国を越えて、(様々なことが)相互に影響を与え合うということがこれまで以上に鮮明になっています。2020年1月以降、COVID-19の原因となるSARS-CoV-2ウイルスは都市や国を越えて猛威を振るい、全ての大陸で発見されました。このウイルスに対して安全な人は誰もいませんでした。ある国で発生したウイルスの変異株はすぐに別の国でも発生し、言語も民族も人種も関係なく拡散しました。ロックダウン、外出禁止令、国の緊急事態宣言などは全ての人に影響を与え、経済的困難、社会的孤立、精神疾患の増加をもたらしました。私たちは、パンデミックによって、地理的に離れていても、身体的にも心理的にも相互に影響を与え合うことを学びました。ウイルスは最終的には現在のワクチンを無効にするかもしれないくらいに変異しながら、各地で制御不能な状態で猛威を振るい続けている限り、この教訓は極めて重要であり続けます。COVID-19のパンデミックは、私たちの誰か一人に影響を与えるものは、全員に影響を与えるのだということを思い出させたのです。

As IPT therapists, however, we don’t need pandemics to remind us that we are interconnected. Indeed, IPT therapists know better than most that well-being is affected by relationships and social support. The central message of IPT—that improved relationships help mood—draws its power from the relevance of human connection. I have had the great privilege of teaching IPT in many places (although I’ve never been to Japan; I hope one day to come visit!), and I am always struck by the universality of the IPT message. The four IPT problem areas speak to the human condition across cultures, language groups, and generations. As IPT therapists, we treat psychiatric symptoms by helping people to lead fuller, more connected lives. The salience of IPT across cultures reminds us that IPT addresses a core human issue, the importance of connection.

しかし、IPTセラピストは、パンデミック下でなくても、私たちは相互に影響し合っていることに十分気がついています。 実際に、IPTセラピストは、ウェルビーイング(幸福)が対人関係やソーシャルサポートに影響されることを誰よりもよく知っています。 対人関係の改善が気分を向上させるというIPTの主要なメッセージがありますが、そのようなIPTの力は人とのつながりというかけがえのないものから生み出されています。私はこれまで各地でIPTを教える機会に恵まれてきましたが(日本には行ったことがありませんが、いつか訪れてみたいと思っています!)、いつもIPTのメッセージの普遍性に驚かされます。 IPTの4つの問題領域は、文化や言語、世代を超えて人々の状態をよく表しています。IPTセラピストとして、私たちは人々がより充実したつながりのある生活を送れるように支援することで、精神症状を治療します。IPTが文化を超えて受け入れられているという特徴は、IPTが人間の中核的なテーマである「つながり」の重要性を扱っているということを、私たちに改めて思い出させてくれるのです。

Connection is also important for IPT therapists. The practice of IPT is enhanced by therapist engagement with communities of like-minded IPT clinicians. Under the leadership of Dr. Mizushima, you have formed a network that supports and sustains IPT in Japan. I hope you will consider broadening those connections even further by joining the International Society of Interpersonal Psychotherapy (ISIPT). ISIPT’s conference will be held virtually this year, November 3-5, 2021, providing the perfect opportunity to explore the ISIPT network from the comfort of your home or office. The conference will feature both live and recorded sessions, as well as opportunities to network and socialize with an international gathering of IPT therapists. The organizing committee will ensure that live activities are offered at times that are feasible for individuals across time zones. I look forward to connecting with you virtually at the 2021 ISIPT meeting and in-person when the COVID-19 pandemic is behind us!

つながりは、IPTセラピストにとっても重要です。志を同じくするIPT臨床家のコミュニティに参加することで、IPTの実践力は向上します。 水島先生(博士)のリーダーシップのもと、皆さんは日本のIPTを支え、持続させるネットワークを構築されていますが、国際対人関係療法学会(ISIPT)に参加して、このネットワークをさらに広げていただけることを心から願っています。 今年のISIPTカンファレンスは、2021年11月3日~5日にオンラインで開催されますので※、ご自宅や職場にいながら、ISIPTのネットワークを体験してみる絶好の機会となります。カンファレンスでは、ライブと録画の両方のセッションが行われるほか、国際的なIPTセラピストたちとの交流の機会も提供されます。 組織委員会は、タイムゾーンを超えて皆さんがご覧いただける時間帯にライブ配信をします。 2021年のISIPT会議ではオンラインで、そしていずれ、COVID-19のパンデミックが収束した頃には直接お会いできることを楽しみにしています。
※ISIPTカンファランスの詳細については下記をクリックしてください
2021 Conference | International Society of Interpersonal Psychotherapy – ISIPT

○●文献紹介●○ 世話人 大石 康則

IPT通信では、毎号、IPTに関する様々なトピックや重要な文献などを紹介しています。
今回ご紹介するのは……

双極I型障害患者に、対人関係・社会リズム療法(IPSRT)を2年間行った結果
Two-Year Outcomes for Interpersonal and Social Rhythm Therapy in Individuals With Bipolar I Disorder
Ellen Frank, PhD; David J. Kupfer, MD; Michael E. Thase, MD; Alan G. Mallinger, MD; Holly A. Swartz, MD; Andrea M. Fagiolini, MD; Victoria Grochocinski, PhD; Patricia Houck, MSH; John Scott, AM; Wesley Thompson, PhD; Timothy Monk, PhD
Arch Gen Psychiatry. 2005;62(9):996-1004. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16143731/

対人関係療法を双極性障害用にアレンジした治療法――対人関係・社会リズム療法の効果を検証した研究です。
対象は18歳から60歳までの双極I型障害および統合失調感情障害(3回以上の感情エピソードを経験、ただし急速交代型は除く)の患者175名。

次の4群に無作為化し、急性期および予防期の治療が行われました。

  • 急性期:4週間連続で、HAM-D(うつ)およびBech-Rafaelsen Scores(躁)が7以下になるまで治療。
  • 予防期:12週間の隔週治療+2年間の月1治療(ただしICM/IPSRT群は予防期最初の12週間は週1治療)。
  • 全期間を通じ、薬物療法も並行しておこなわれている。

結果は……

  • 参加者数の推移
    ・IPSRT/IPSRT群:急性期39名→予防期27名→完遂22名
    ・IPSRT/ICM群:急性期43名→予防期32名→完遂19名
    ・ICM/IPSRT群:急性期45名→予防期32名→完遂25名
    ・ICM/ICM群:急性期48名→予防期34名→完遂27名
  • 急性期におけるIPSRTとICMの寛解率(IPSRT, 70%; ICM, 72%)と寛解までの期間に有意差なし。
  • 予防期の再発率は
    ・IPSRT/IPSRT:41%
    ・IPSRT/ICM:41%
    ・ICM/ICM:28%
    ・ICM/IPSRT:63%
  • 再発までの期間について
    ・急性期の治療がICMよりIPSRTの方が再発までの期間が長い。
    ・予防期における治療、IPSRTとICMで再発までの期間に有意差なし。
    ・未婚者に比べ、既婚者の方が再発までの期間が長い。
    ・試験参加時のエピソードが混合エピソードの場合、再発までの期間が短い。
    ・急性期終了時の社会リズムの規則性が高いほど、再発の可能性が低い。

となりました。

注目すべきは、(予防期の治療法にかかわらず)急性期にIPSRTを行った群が再発しにくかった点です。
予防期にIPSRT、ICMどちらを行っても治療効果は変わらない点は少し意外な感じがしますが、社会リズムをきちんと身につけるには急性期のような「波のある時期」が向いているということなのかもしれません。

今回の文献紹介は以上です。
次号もどうぞよろしくお願いいたします。

○●実践応用編(オンライン)開催案内(2021年10月24日)●○ 世話人 岩山 孝幸

前回の特別編開催から少し間が空いてしまいましたが、10月24日に1年ぶりとなる実践応用編をオンライン形式で開催することになりました。詳細は、8月5日に研究会のメーリングリストで配信しました開催案内をご覧ください。

また、研究会ホームページにも以下の通り開催案内を掲載しています。
「IPT-JAPAN主催ワークショップ実践応用編 2021年10月24日」

前回同様、発表者には同意書の取得をお願いし、参加者には誓約書を提出いただくなど個人情報の取り扱いに細心の注意を払い実施します。前回の実践応用編では、オンライン形式であったためか、いつも以上にディスカッションが活発に行われ、参加者同士のやり取りから重要な気づきが得られたという声を数多くいただきました。

実践応用編は実際の症例をもとに、診断やフォーミュレーションだけでなく、具体的な治療の進め方を学ぶことができる貴重な機会となっています。当日はこれからIPTを始めようとされている方や現在IPTを実践中の方まで幅広い方にご参加いただけるように、発表症例を選定します。皆様のご参加をお待ちしています。

○●編集後記●○

最後までニュースレターをお読みいただき、ありがとうございます。今回は、筆者が前回オンライン特別編に参加した際に得た学びを簡単に共有するとともに、このような学びをどのように実践応用し、IPT実践力の向上に努めているかについて述べたいと思います。筆者は前回のオンライン特別編で、トラウマ治療のポイントである「信頼感の回復/構築」の中でも、自分への信頼感の回復/構築において、「セラピストが、患者(クライエント)さんが選択可能な選択肢から提示し、選択できたら褒めること」の重要性を学びました。ワークショップでこのような学びを得た後は毎回すぐに、提示された症例と似たようなトラウマ症状を有する患者(クライエント)さんの治療で実践しています。実際の症例でこの学びを実践していくと、必ずと言っていいほど新たな疑問がでてきますので、マーコウィッツ先生の著書「PTSDのための対人関係療法」はじめIPTやトラウマ疾患に関する国内外の本を復習するようにしています。ですが、本を熟読するだけでは実臨床の疑問を解決できないことがあるので、先輩・同僚・友人とディスカッションするようにしています。ディスカッションをすると、狭い視野が広がり、実臨床の疑問の解決につながるヒントを発見できることが多くあります。このように、筆者は臨床実践・ワークショップや学会への参加・読書・先輩や仲間とのディスカッションの4つを経験していくことで、IPT実践力向上につながっているのではと思っています。特に、同じ志をもつ先輩・仲間とディスカッションできることは、狭い視野が広がること以上に、実臨床を含む様々な活動のモチベーションにつながるため、とても貴重で有難い時間だと感じています。

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IPT-JAPAN通信 編集委員会 担当メールアドレス: letter@ipt-japan.org

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