対人関係療法研究会の皆様へ

新年あけましておめでとうございます。昨年中は対人関係療法研究会の活動にご理解いただき、感謝申し上げます。本年も、臨床現場でご尽力されている皆様に少しでもお役に立つ情報をお伝えできればという思いで、定期的にIPT-JAPAN通信を発行いたしますので、何卒よろしくお願い申し上げます。IPT-JAPAN通信Vol.6では、2021年11月3日~5日にオンライン開催されたisIPT(国際対人関係療法学会)会議「How IPT brings us together」の参加記について紹介いたします。参加記をご覧いただきisIPT会議にご興味をもたれましたら、2022年2月4日までオンデマンド配信にて視聴できますので、諸外国で行われているIPTの臨床実践や研究について是非ご覧いただき、isIPT会議の雰囲気を体感していただけたらと思います。

※isIPT会議の詳細については下記をクリックしてください
2021 Conference | International Society of Interpersonal Psychotherapy – ISIPT

IPT-JAPAN通信編集委員会

○●第9回isIPT学会に参加して●○
東京歯科大学市川総合病院 精神科 宗未来

現地開催で世界中のIPTセラピストと直接触れ合い交流できるメリットは言うまでもありませんが、オンライン開催ならではの利点も多く、長期休暇が取りづらい立場としては誰もが安く簡単にアクセスできる点はすばらしいと思いました。現地開催では通常裏かぶりした発表は見られず、いつも悔いが残っていたものでしたが、オンデマンドではどちらも視聴でき、特に例年時差ボケで居眠りして聞き逃すようなポイントも、オンラインなら再度聞き直せる、というのは大変魅力的でした。
私自身は学会の終了後から年末休みと正月休みを利用して、半分程度のセッションを視聴した中で、個人的な雑感を報告したいと思います。
今回の全体の特徴としては、IPTの①応用、②普及、③コロナ、が大きな流れとして感じられ、それら全てと関わる形でIT化(IT-IPTという言葉も使われていました)というテーマが脈々と貫かれているという印象を受けました。
“応用”については、既にIPTの世界ではプレセンスを得ている思春期に対するIPT-A、児童に対するFB-IPT、双極性障害に対するIPSRT、摂食障害に対するIPT-ED、IPT-PTSDなどがそれぞれ各方面での新たな試みも紹介されていました。個人的にはPTSDに対するさまざまなIPTの試みが行われ、IPTの効果が現在の第一選択治療とされている持続エクスポージャー法に劣らず、脱落は有意に少ないという現isIPT会長のMarkowitzコロンビア大学教授らの臨床試験が、他のグループによっても示されていたことがIPTの未来をますます頼もしく感じさせるもので興味深かったです。
また、摂食障害では、神経性過食症や過食性障害に対して、北米ではますます活発に臨床・研究が活発に行われており、特にうつ病やPTSDを併存しているような摂食障害ケースではIPTは真の意味での診断横断的治療を可能とし、“IPTこそが本質的な摂食障害の治療”という発表者の言葉に私自身も強く勇気づけられました。
IPTにはさまざまな修飾版が存在するとはいえ、メディカルモデルについてのワークショップの中では、85%のIPT治療者が自分なりに型を崩して実践しているというアンケート結果に対して、決してIPTを個々人が好き勝手にやっていいわけではなく、柱となるコアの部分については崩すべきではなく、たとえ修飾するにしてもきちんと学会のようなオープンの場でそれを公開し、多くの目に晒され議論を経るべきだというディスカッションを聞き、日本でもしっかりとワークショップでIPTの基本の型を叩き込むことの重要性を改めて痛感させられたのでした。
“普及”という点では、私の英国留学中の指導教官の一人であり、世界的なグローバルメンタルヘルスの第一人者で、現在はハーバード・メディカルスクールのPatel教授もゲストとして基調講演を行い、精神療法をもっと広げることの重要性の強調とその工夫を提唱していました。やはり基調講演においてIPT創始者Weissmanは、IPT普及上の観点からもIPCの重要性に言及しており、これからのIPTが進むべきひとつの方向性を指し示す力強いメッセージだと感じました。また、全米の24大学の相談室を訪れたうつ病や摂食障害の学生を対象に、セラピストをトップダウンで教育する旧来方式と、各地の指導者を育てそこでセラピストを自給自足で育成してもらう効率的なTrain-the-trainer方式で、無作為化比較試験を実施した結果、同等の効果が得られた中で治療者の能力は後者が上回ったというワシントン大学のWilfleyらの報告が今後の普及を考える上でも示唆に富んだものでした。
“コロナ”については、さまざまな疫学データが発表されており、その多くで精神的被害は高齢者よりも若者に強く認められており(さまざまな機会損失などの煽りを受けやすいため)興味深く感じました。特にコロナ禍で深刻視されているのが若者では2-3割の増加が報告される孤独であり、孤独が心身の健康悪化と結びついているという疫学を背景根拠として、IPTの問題領域における対人関係の欠如(interpersonal deficit/sensitivity)(完全な孤立問題の解決というよりは、孤立問題へ認識とその着手への形づくりまで)と結びつけられないかという試みが探索的に各地で行われ報告されていました。中でも、Swartzピッツバーグ大学教授らは、コロナ禍で孤立した若者をSNS上でどのようにIPTで関係性を築くかという試みが有用であったと話されており、個人的には興味深かったです。
上記の全体を通じて、電話やオンラインを活用した遠隔IPTのさまざまな試みが随所で行われており、全体として効果は得られ、対人面接よりアクセスが高まり、脱落が減るという報告が複数認められた一方で、Markowitzは遠隔の良さは間違いなくあるが、画面越しでの情緒的なやりとりがどこまでのものなのかという点はさらなる検証も必要であろうという意見を出しており、コロナで遠隔カウンセリングが広がりつつある日本においても重要な留意点ではないかと感じました。

○●9th conference of isIPTに参加して●○
名古屋市立大学大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野
近藤真前

私はまず、興味のあったFamily-based IPT(FB-IPT)のコースを視聴しました。FB-IPTは思春期前(8~12歳)の患者を対象とし、成人のIPTから修正が加えられています。最も大きい特徴は、すべてのセッションに親が参加する点でしょう。初期はセッション前半が子どものみ、後半は親のみの面接で、中期・終結期はセッション前半が子どものみ、後半は子ども+親の同席面接という構造です。初期では問題領域、フォーミュレーション、治療目標を患者だけでなく親とも共有し、治療者は親にも直接、心理教育を行います。中期以降は、セッション前半で直近の対人イベントとそれに伴う感情・期待を整理し、子どもと選択肢の検討やロールプレイをして(つまり普通のIPTを行って)、その後の親同席面接では親ともそれらを共有し、親子でロールプレイをしたりします。実際の治療場面の映像も見ることができ、とても暖かな雰囲気で治療が進んでいました。全セッションに親が参加する一方で、患者本人の気持ちを最優先に暖かく受け止めるIPTの基本形は変わっていませんでした。欧米と日本の文化差を考えると、親の影響がより強いと思われる日本では、中学生以降のケースにもこの構造は有用ではないかと感じました。

次には、中国でのIPTの現状についてのシンポジウムを視聴しました。中国では2016~2017年にHolly Swartzを招いて初めてのIPTワークショップが開催され、そこから少しずつ広がり始めた段階のようです。私にとって、日本で水島先生が継続されてきた入門編・応用編の質の高さを再認識する機会となりました。ますます日本でIPTの普及が進むように、私も微力ながら尽力したいと思います。また、中国では「子どもは親に従順であるべき」という伝統的な価値観があり、それが子どものうつ病に影響していることが多く、親を積極的に治療に参加させるのが有用とのことでした。IPTは対人関係を扱うため、文化差を踏まえた微修正が必要であり、日本の文化に合うIPTの工夫を蓄積していく必要があると感じました。今回の学会では、日本から名古屋市立大学の利重裕子先生が悲嘆関連うつ病に対するIPTの症例報告をされ、日本文化の深い理解に基づいたきめ細かな介入について考察を加えた素晴らしい発表をされていました。このような研究の積み重ねが大事だと再認識しました。

オンデマンド視聴で自宅にいながら世界のIPT臨床家・研究者から学べるのは大変貴重な機会でした。また、各発表者のスライドがわかりやすく、オンデマンド視聴では繰り返し見ることができ、英語の聞き取りが苦手な私にも非常に勉強になりました。2023年はアムステルダムでの開催が予定されており、そのころにはCOVID-19の影響がなくなっていることを期待しますが、オンデマンド視聴もあるといいなと思ってしまうほど有意義でした。みなさまもぜひ参加されてはいかがでしょうか。

○●ハイブリッド型の国際学会の魅力●○
金沢学院大学 文学部 前川浩子

私が初めてisIPTの学会に参加したのは2013年でした。アイオワで開催された学会でしたが、長期の出張が難しく、私が参加できたのはプレ・カンファレンスのみで、当時のIPTのレベルAコースを受講しました。研究発表や基調講演が行われる学会には参加できず、後ろ髪を引かれる思いで会場を後にしました。ロンドンでの2015年の学会には参加することができ、IPTのテキストや論文でおなじみの著名な先生方のレクチャーを聴けたことに感動したことは今でも思い出されます。英語があまり得意でない私にとっては2013年も2015年も水島先生をはじめ、日本から参加された先生方にたくさん助けていただきました。isIPTの学会に参加して感じることは、学会場にあふれるIPT研究者・実践者によって醸し出されるあたたかい雰囲気です。このようなあたたかい雰囲気がオンライン学会ではどのようなものになるのか。興味を持って参加しました。

今回の学会は参加費を支払うと、LIVEでの参加もできますし、学会終了後、3か月間は録画されたものや、あらかじめオンデマンドで配信されているものも、視聴することができるようになっています。時差があり、日本からのLIVE参加は眠気との戦いですが、私は3日間で8つのセッションに参加しました。

学会キックオフのウェルカムスピーチでは、学会の参加者(申込者)は225名であること、26か国からの参加があることがFlynn先生から発表されました。そして、IPT通信にも寄稿してくださったWeissman先生からもIPTの歴史に関するお話があり、そして、IPTが実践されているすべての国名(もちろん、Japanも!)が読み上げられました。

私がLIVE参加した8つのセッションのうち、最も印象に残っているものは「思春期のPTSDに対するIPT」に関するものです。思春期のうつ病に対するIPTについてはIPT-Aとしてすでに開発されていますが、このIPT-AとIPT for PTSDを組み合わせるというチャレンジがイギリスとアメリカで行われたという報告がなされました。また、コロナ禍での実践ということもあり、治療にはオンラインが用いられたケースもありました。思春期のPTSDに対するIPTは、14~16回のセッション(家族の同席も含む)から成り、トラウマや感情についての心理教育を行うこと、1週間の気分評価(イライラ、怒り、不安)をしてもらうこと、そして、養育者にも積極的に治療に関わってもらうことなどが特徴として挙げられます。特に、養育者自身がトラウマ体験をしている場合もあり、トラウマの世代間伝達を認識してもらい、トラウマによってコミュニケーションスタイルに変化が生じることを理解してもらうことも重要であると述べられました。アメリカでは10名が、イギリスでは8名が研究に参加し、全体としては治療効果があったことが示されました。また、慢性的な症状がある場合や、複数のトラウマがある場合には、セッション数を増やすこと(特に、初期を多くすること)が必要であるとされました。さらに、オンラインが用いられたケースでは、リラックスして治療に取り組めたとも報告され、コロナ禍という状況によるプラスの面もうかがえました。一方で、今回のプロジェクトに参加した思春期の子どものトラウマ体験では虐待やマルトリートメント(maltreatment)によるものが多く、トラウマ体験自体に養育者が関与しており、親子がともに生活する同じ環境のもとで、安全を維持すること・安全を確立することの難しさについては課題があることも示されました。

このセッションでは自分が現在関心を持っている、「思春期」と「PTSD」の両方について学ぶことができました。また、IPT-AとIPT for PTSDの2つを組み合わせることによって、思春期のPTSDに対して効果が見出せそうだという結果は、IPTの可能性を再確認するとともに、これまでのエビデンスの蓄積がこの可能性を支えるものだということにも気づかされます。

今回の学会では、IPT通信の「Meet the Experts」に寄稿してくださったWeissman先生はもとより、Markowitz先生、Swartz先生、そして、思春期版の開発者でいらっしゃるMufson先生のお話も伺うことができました。オンラインではありますが、どの先生方もリラックスされて、にこやかな表情でお話される様子が印象的で、画面越しではありますが、やはりisIPTのあたたかく、優しい雰囲気を体験することができたように感じています。また、ライブとオンデマンドのハイブリッド型であったことによって、もう一度録画を見て復習や確認ができる、ということもIPTの学習を助けてくれるように思います(録画があることで、こうして文章が書けるのです…笑)。いつかまた、対面による国際学会に参加できることを楽しみにするとともに、オンライン学会を通してもIPTの世界とつながることができることの素晴らしさも大切にできたらと思います。

○●isIPT会議での症例報告について●○
名古屋市立大学大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野
利重裕子

2017年にカナダのトロントで開催されたisIPT会議にはじめて参加させていただきましたが、当時の私はIPTの道に足を踏み入れたばかりであったため、講演内容から何かを学ぶというよりも、国際学会の雰囲気を肌で感じ取り、IPTへのモチベーションを高めて帰ってきたように思います。帰国後はうつ病に対するIPTをまずはしっかり習得しようと、症例を積み重ねていった記憶があります。2019年にハンガリーのブダペストで開催されたisIPT会議では、Markowitz先生のIPT for PTSDの講演を拝聴できたことで、PTSD治療へのモチベーションが高まり、帰国後に水島広子先生が監訳されたMarkowitz先生の著書『PTSDのための対人関係療法』(創元社)を興味深く熟読しながら、PTSDに対するIPTを連続してチャレンジしていきました。このように、過去のisIPT会議への参加を振り返ってみると、isIPT会議全体の雰囲気や世界の素晴らしいIPTセラピストの講演、休憩中のほんのちょっとした対人関係から温かい刺激を受けて、治療意欲・研究意欲が高まっていることに気付きました。

今回2021年のisIPT会議は現地開催ではなかったので、isIPT会議全体の雰囲気を肌で感じられないと思うと、少し残念な気持ちではありました。一方で、オンライン開催だからこそ、自宅という一番安心感がある環境下にて、思い切って「IPT for bereavement-related major depressive disorder & prolonged grief disorder in a Japanese man」というテーマで症例報告の口頭発表(事前録画)ならびにディスカッション(リアルタイム、同時通訳あり)をすることができました。遺族のうつ病やPGD(現在、国際疾病分類第11版(ICD-11)に含まれ、まもなく「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版」(DSM-5-TR)に登場する診断名)に対するIPTの症例報告をした理由としては、現在遺族のうつ病とPGDに対する標準化された治療ガイドラインがないため、IPTを日本文化に合うように修飾することで大切な人との死別後に苦しまれている遺族の方の役に立つと考え、その第一歩として発表いたしました。症例報告をするにあたり、明智龍男先生、水島広子先生、近藤真前先生、岡崎純弥先生に多大なサポートをいただき、感謝申し上げます。リアルタイムのディスカッションでは、精神疾患に対する治療法の現状に関する話題になり、私が日本の現状について簡単にお伝えした後、Weissman先生が「日本において(保険適応がある)認知行動療法以外にも、対人関係療法という選択肢が広がっていくといいですよね」などと温かく励ましてくださいました。

今回のisIPT会議はオンライン開催でしたが、リアルタイムの講演や症例報告後のディスカッションではとても温かい気持ちになりましたし、オンデマンド配信は繰り返し視聴できるので自分の興味がある思春期やPTSD関連の講演をより深く理解することができ、治療意欲・研究意欲がとても高まりました。IPTは基本的に1対1の精神療法ですが、定期的に国際学会に参加したり、日本でのIPT研究会に参加したりし、尊敬する治療者や仲間、後輩から刺激をいただきながら(できれば、私が相手にとっても良い刺激になれるように)、IPT治療に取り組んでいきたいと思いました。

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