※研究会メーリングリスト配信版と比べ,画像を一部割愛しております

対人関係療法研究会の皆様へ
臨床現場でご尽力されている皆様に少しでもお役に立つ情報をお伝えできればという思いで、定期的にIPT-JAPAN通信を発行しております。IPT-JAPAN通信Vol.10では、対人関係療法と抗うつ薬による治療後の脳血流変化の違いを報告した文献紹介、ならびに2月に開催された実践入門編の開催報告についてお伝えいたします。

IPT-JAPAN通信編集委員会

○●文献紹介●○ 世話人 大石 康則

IPT通信では、毎号、IPTに関する様々なトピックや重要な文献などを紹介しています。
今回ご紹介するのは……

対人関係療法およびベンラファキシンによって治療されたうつ病患者の脳血流変化:予備的調査結果
Brain blood flow changes in depressed patients treated with interpersonal psychotherapy or venlafaxine hydrochloride: preliminary findings.
Martin SD, Martin E, Rai SS, Richardson MA, Royall R.
Arch Gen Psychiatry. 2001; Jul;58(7):641-8. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11448369/

2001年に英国で行われた研究です。IPTで治療された一群と抗うつ薬(ベンラファキシン:SNRI)によって治療された一群それぞれに脳血流SPECT※を行い、その差異について検討しています。
※ 脳血流SPECT:放射性同位元素で標識された薬剤を体内に投与し、脳の血流を評価する検査

全体の流れは以下の通り。

  1. 参加者は17項目のハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)で18点以上の患者28名。✔ 参加者は過去6か月以内に抗うつ薬の使用歴なし。
  2. IPT治療群に13名(男性4、女性9)、抗うつ薬(ベンラファキシン)治療群に15名が割り当てられた。
    ✔ 完全な無作為化試験ではない(無作為化の手続きなしで1名がIPT治療群に、4名が抗うつ薬群治療群に割り当てられた)。
  3. 治療期間は6週間。
    ✔ IPTは訓練された精神科看護師によって週1回1時間の条件で行われた(6週以後も治療が続けられ、最終的に計16回施行されている)。
    ✔ ベンラファキシンの投与量は37.5㎎/日(1日2回投与)。
  4. 治療開始前と6週の時点でHAM-D、ハミルトン不安評価尺度(HAM-A)、ベック抑うつ質問票(BDI)による評価、そして脳血流SPECTが行われた。

結果は……

  • HAM-DスコアはIPT治療群で22.7→16.2(P=0.005)、抗うつ薬治療群で22.4→10.9(P<0.001)と低下した。
    (画像ファイルは割愛)
  • BDIスコアはIPT治療群で27.9→18.0(P=0.01)、抗うつ薬治療群で26.3→12.0(P<0.001)と低下した。
    (画像ファイルは割愛)
  • HAM-AスコアはIPT治療群で19.2→14.7(P=0.02)、抗うつ薬治療群で17.2→10.3(P<0.001)と低下した。
    (画像ファイルは割愛)

全てのスコアにおいて、IPT治療群、抗うつ薬治療群ともに症状の改善がみられています。全体的に抗うつ薬治療群の方が大きく改善している傾向はありますが、これは6週間という観察期間がIPTの効果を示すのに十分ではないことが影響しているためでしょう。なお、二つの治療群の改善効果に統計的有意差はありませんでした。

続いて脳血流SPECTの結果です。

  • 抗うつ薬治療群では右後側頭葉領域、右大脳基底核領域の活性化が見られた(ただし前者の活性化は1人の患者のアーチファクト(ノイズ)が大きく影響した可能性あり)。
  • IPT治療群では右後帯状皮質領域、右大脳基底核領域の活性化が見られた。

以上のように、IPT治療群では(抗うつ薬治療群において観察されない)右後帯状皮質領域の活性化がみとめられました。これは、IPTによる治療が抗うつ薬とは“異なる作用”を脳に与える可能性を示唆するもので、とても興味深い知見だと思います。後帯状皮質は「共感」に関与しているとする文献(Brain Struct Funct.2012 Oct;217(4):783-96.)もあり、IPTによってその部分が賦活されるというのは納得できる内容といえます。

うつ病に対するIPTのメタアナリシス(Am J Psychiatry.2011 jun;168(6):581-92)では、薬物療法とIPTを併用すると薬物療法単独の場合に比べて再発率が低いという結果が出ています。もしかすると、これもIPTが薬物療法とは“異なる作用”を脳に及ぼした結果なのかもしれません。

今回の文献紹介は以上です。
次号以降もどうぞよろしくお願いいたします。

○●実践応用編(オンライン)開催報告 (2023年2月26日)●○ 世話人 岩山 孝幸

2/26(日)に「実践応用編」をオンラインで開催致しました。「実践入門編」の開催直後ということもあり、50名を超える多くの方にご参加いただきました。アンケートからは、「実際のケースに触れることができイメージがわきました」「逐語録があるので、セッションの流れが具体的に分かって貴重な機会となりました」といったこれからIPTを始める上で参考になったという感想や、「問題領域から話がズレていったときの対応の仕方が分かり参考になりました」「同席面接で患者さん、関係者、それぞれにどのように振る舞えば良いのか指針となることが分かり良かったです」といった担当しているケースに還元できる学びが得られたという感想も多くいただきました。多くの方にご参加いただけるようになったことで、これまで以上にさまざまな方にご発表いただき、IPTを受けたいとお考えの皆様に少しでも多く届けられますようにワークショップを精力的に開催していきます。皆様のご参加をお待ちしております。

○●編集後記●○

最後までニュースレターをお読みいただき、ありがとうございます。最近、私自身の気持ちが大きく動いた出来事についてお話したいと思います。先日、尊敬する先輩であり、友人でもある先生がクリニックを開業するので、内覧会にお邪魔しました。内覧会当日は、地域の方達はもちろん、遠方からご友人や元同僚の方達も来られていました。その先生が、誰に対しても分け隔てない態度で優しく誠実に接していらっしゃることに、私は以前から尊敬しておりましたので、開業を応援したい気持ちでお邪魔しました。ご友人や元同僚の方達も、私と同じ思いで駆け付けられていました。その先生が当日お忙しい中で時間を作って労いの言葉をかけてくれたことと、その先生を応援したい方達とお話できて同じ思いを共有できたことで、とても温かい気持ちになりました。また、当直明けの疲労感も一気に軽減しました。まさに対人関係と感情・身体感覚が関連していると体感した出来事でした。日頃から自分自身の対人関係と感情を関連付けていると、自分の気持ちを安定化できるとともに、大切な人をより大切にできるようになりますし、患者さんの治療にも役立つかと思います。

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